【今週の記事】2025年3月25日 事業者は従業員のセクハラについて責任を負うか


 最近、テレビ局関連のハラスメントが報道されています。テレビ業界はそういうこともあるのかと驚かれている方も多いと思います。
 実はずっと以前に運送業界のセクハラに関し、重要な判断がなされた裁判例があります。その裁判例(大阪地判1998年12月21日判時1687号104㌻)を取り上げたいと思います。
 セクシュアルハラスメントに関しては、既に各事業者で研修などを実施されていると思います。ですから、セクハラに関する一般論はここでは割愛します。
 セクハラについては、男女雇用機会均等法で、各事業者で対策することが幾つか義務付けられています。今回ご紹介する事案は、セクハラが法律に明記されていなかった頃のもので、従業員が行うセクハラについて会社が責任を負うか、民法715条の使用者責任が問題となりました。
 同条は、使用者は従業員が「事業の執行について」第三者に加えた損害を賠償する責任を負うと定めています。運送事業者としては、使用者の責任に注目して本件事案を見なければなりません。
 では、事案を見ていきましょう。
 A社は、貨物運送事業などを目的とする大手の会社です。BはA社に勤務するドライバーで、CはA社に勤務し事務作業などを担当していました。
 Bは、Cを含む従業員らが参加する飲み会を主催しました。1次会は居酒屋で、2次会はカラオケで行われました。Cは2次会の途中で帰宅しています。その後、Cは会社に出勤しなくなりました。Cの夫が会社に対し、CがBからわいせつ行為を受けた旨の苦情を申し立てたことでA社が事件を知ったという事案です。Cは、A社とBを相手に不法行為に基づく損害賠償請求の訴えを提起しました。
 裁判で争点となったのは以下の三つです。
 第1に、わいせつ行為(今でいうセクハラ)はあったのか。
 第2に、セクハラがあったとしてそれは会社に責任があるか(民法715条の「事業の執行につき」なされたものか)。
 第3に、Cが会社に出勤しなくなったことについてA社に責任はあるか。
 第1のわいせつ行為の有無について、A社とBは否定しましたが、裁判所はスカートをめくるなどのわいせつ行為があったことを認定しました。
 第2の、わいせつ行為が「事業の執行につき」(民法715条)なされたものであるかについて、A社は次の点を主張していました。
 ①Cは問題となった飲み会の少し前に配置転換され、BとCは上司と部下の関係ではなくなっていた②会社は飲み会を知らず費用も負担していない③会社では男性ドライバーとCを含む事務などを行うグループ(全員女性)との飲み会を禁止していた④Cは私的な親交から誘われたにすぎない⑤飲み会当日はCの出勤日ではなかった⑥Cが飲み会に積極的に参加した――ことなどです。
 これらの会社の主張に対し、裁判所は厳正に判断しています。注目すべきは、会社の主張のうち「Cの配置転換」と「飲み会の禁止」です。
 裁判所は、Cが配置転換されていたことについて、歓迎会(本件飲み会)に誘われていることも認められ、BとCの上下関係は完全に切断されていなかったとしました。
 また、会社で私的な飲み会をしないよう通知していたことについては、単に口頭で通知を繰り返したにとどまるもので、現に12人もの従業員が本件飲み会に参加したことに照らせば、会社による通知はさほどの重みを持って受け止められていなかったと判断しました。
 結局のところ、裁判所は、BはCを含む従業員との懇親を図るために本件飲み会を企画し、Cに誘い掛け、Cが1次会で帰宅しようとすると「カラオケに行こう」と2次会に誘い、嫌がるCに対し仕事の話に絡ませながら性的嫌がらせを繰り返したのであるから、職務に関連させて上司たる地位を利用して行ったもの、すなわち、事業の執行につきされたものであると認めました。
 第3のCが会社に出勤しなくなったことに対してA社に責任があるかについて、裁判所は、被告会社が職場改善策を取るべきであったとは直ちに言えないこと、CがBと再び顔を合わせる危険性は乏しいことなどを理由として、A社の責任を否定しています。ただし、この点については、その後、法律で各事業者へのセクハラ対策が義務付けられていることから、今後同様の事例では、会社に責任があると判断されてしまう可能性もあります。
 結論として、裁判所は、B個人とA社に110万円の損害賠償責任があると認めました。
 事業者としては、私的な飲み会を禁止し通知していたのだから、それ以上、対策のしようがないと思えるかもしれません。現在ではさらに厳しく事業者の法的責任が問われるでしょう。セクハラ研修による従業員教育や相談窓口設置等、事業者として実施すべきことを計画しそれを実行していかねばなりません。最近のテレビ局に関する事件の報道を見る度に、事業者としてどのようにセクハラに向き合うべきかと考えさせられます。


執筆者 弁護士青木秀樹(第一東京弁護士会所属)
物流関連企業で勤務後に弁護士となる
2021年青木総合法律事務所立ち上げ
物流関連企業を含め中小企業顧問業務を担当
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