割増賃金

弁護士による解説

 今回は時間外の割増賃金に関する裁判例を取り上げます。ご存じの方も多いと思いますが重要な判例です。令和5年にも重要な判例が出ており、別の機会で取り上げたいと考えています。


物流業界では、事業者の割増賃金の負担が大きく、各事業者で様々な工夫がなされてきました。

 割増賃金については労働基準法37条が規定しています。労働基準法37条は割増賃金について「使用者が…労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては…通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内…割増賃金を支払わなければならない。(以下省略)」と規定しています。

 残業が発生した場合には①通常の労働時間の賃金に加えて②割増賃金を支払うことになります。

 さて、物流業界では、他業種と比較して割増賃金相当額を他の手当等から控除する仕組みを採用する会社が多いと聞きます。割増賃金の増減により月毎に支払うべき給与の変動が激しいと、事業者側としては予測が立たず困りますので、ある程度想定された範囲内の増減に収まるようにする趣旨と理解しています。


 今回ご紹介する判例は、このような仕組みについて判断したものです。では事案を見ていきましょう。

 本件は、タクシー乗務員のAらが勤務するB社に対して未払賃金等の支払いを求めたものです。問題となったのは、割増賃金の部分です。B社では賃金の内訳が、①基本給、②服務手当、③歩合給⑴、④歩合給⑵、⑤割増金及び⑥交通費となっていました。このうち、③の歩合給⑴の決め方は、算出される一定の額から割増金(⑤)及び交通費(⑥)を差し引いたものとされていました。

 つまり、Aらが残業して割増金(⑤)が発生しても、それにより賃金総額が増加するのではなく、割増金が発生した分歩合給⑴が減るだけでした。結果的に、Aらが残業しても賃金は増加することなく同じだったのです。

 Aらはこのような割増金の決め方が労働基準法37条に違反すると主張しました。


 結論から言えば、最高裁は、B社の賃金規則を適法であるとした控訴審の判断を破棄差戻ししました。つまり、Aらの主張を認める判断をしました。

 最高裁は、まず、労基法37条の趣旨について、使用者に割増賃金を支払わせることで、時間外労働を抑制し、法を遵守させ、労働者への補償を行なうものだとしました。

 次に、割増賃金の算定方法が労基法37条に定めるものと異なる方法で算定されても、労基法37条が定める額を下回らない金額が支払われる限り同条には反しないとしました。

 さらに、労基法37条の割増賃金が支払われているかどうかを判断するためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分が判別できなければならないとしました。この判別の基準も示されました。

 そして本件では、例えば残業時間が多くなって割増金の額が大きくなり③の歩合給⑴がゼロ円になってしまう場合には、出来高払いの賃金部分は割増金のみとなってしまうが、それは労基法37条の本質から逸脱しているとしました。

 さらに、結局、本件の賃金規則は、出来高払制の下で元来は歩合給⑴として支払うべき賃金を時間外労働がある場合には名目を割増金に置き換えて支払うものだとしとしました。

 そして、割増金はその一部に時間外労働に対する対価として支払われるものが含まれているとしても、通常の労働時間の賃金である歩合給⑴として支払われるべき部分を相当程度含んでいるとし、割増金として支払われる賃金のうちどの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかは明らかでなく、通常の労働時間の賃金にあたる部分と労働基準法37条に定める割増賃金に当たる部分とを判別できないとしました。

 このように、最高裁は本件の割増賃金に関する仕組みでは、労基法37条の定める割増賃金が支払われたとはいえないとしました。


 さて、重要な点をみていきます。第1に、割増賃金の支払い方について、割増賃金相当額を他の手当等から控除する仕組み自体は違法ではないという点です。労基法37条が定める金額を下回らないことは必要であるものの、ある程度柔軟に仕組みが許容されるという点が重要です。

 第2に、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分が判別できなければならいとし、さらに、手当が時間外労働等に対する対価として支払われたといえなければならないとされている点です。この点に関しては、形式的ではなく実質的な判断がなされています。

 事業者としては労基法37条に定める金額は支払われていますよ、と明確な説明ができなければなりません。どんぶり勘定で、そこそこの金額をしはらっているからいいだろうでは問題にならないのです。

 さらには、賃金体系が現行法に沿ったものか否かを定期的に見直す必要があります。 人材確保という点からも、従業員にしっかりと補償できる仕組み、事業者として従業員に明確に説明できる仕組みを目指さなければならないでしょう。


執筆者 弁護士青木秀樹(第一東京弁護士会所属)
物流関連企業で勤務後に弁護士となる
2021年青木総合法律事務所立ち上げ
物流関連企業を含め中小企業顧問業務を担当
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