本連載は、物流業における人材確保及び将来の物流という観点から、過去の裁判例を解説するものです。
近時、物流業界では、正社員だけではなくあらゆる雇用形態に幅を広げて人材を確保しなければならない状況にあります。
契約社員、派遣社員といった様々な形で人材を確保しなければ仕事が回らないといった話をよく聞きます。雇用する側からすれば、人材を確保できるというメリットがある一方で、正社員との違いをどこで線引きすればよいのかという不安があるでしょう。雇用される側としても、自分で雇用形態を選択できるというメリットがあるものの、雇用形態によって不利な扱いを受けるかもしれないという不安があります。
これまで契約社員や派遣社員の雇用は何となく対応しているつもりであったが、どこまで正社員と同様の扱いをすればよいのかわからないという声をきくところです。
そこで、今回は、契約社員として勤務していた従業員が会社を相手に正社員と同様の条件で取り扱われないのはおかしいとして起こした裁判について解説します。この裁判では最高裁判所まで争われました。
「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(短時有期法)第8条は、「事業主は…短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇…について…通常の労働者の待遇との間において…不合理と認められる相違を設けてはならない」と定めています。
本件判例は同様の規定が労働契約法第20条で定められていた頃のものですが、短時有期法第8条のもとでも参考になるものです。
では、今回の事案を見てみましょう。
Aは、B社において契約社員として勤務していました。B社は一般貨物自動車運送事業を営む会社でした。AはB社と時給制でドライバーとして仕事をする旨契約していました。B社では正社員には無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、通勤手当、家族手当、賞与、退職金等を支給することが就業規則に定められていました。これに対して、契約社員に適用される契約社員を対象とする就業規則には、これらの手当に関する定めはなく、交通費は実費支給、昇給は例外的であること、賞与や退職金は原則として支給しないと定められていました。
しかし、Aの行っていたドライバーとしての業務の内容は、正社員の行っていた業務の内容と同じで、責任の程度も同様のものでした。
Aは、B社に対し、上述の取扱いの違いが改正前の労働契約法20条に違反するとして、正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認等を求め訴訟を提起しました。
最高裁は、旧労働契約法20条が禁止していた有期契約労働者と無期労働契約労働者との間の労働条件の不合理な相違について、同条の趣旨や効力について言及したうえで、各手当について詳細に判断しました。
まず、住宅手当については、正社員は転勤が予定されているのに対し、契約社員には転勤が予定されていないことから、正社員にのみ住宅手当が支給されるのも不合理ではないとしました。
次に、皆勤手当については、同手当が運転手確保のための皆勤奨励であるから、その必要性は契約社員と正社員では異ならないとして、差異を設けることは不合理であるとしました。
さらに、無事故手当についても、優良ドライバーの育成等が目的であり、契約社員と正社員で職務内容が同じならば手当の差を設けることは不合理であるなどとしました。
作業手当についても契約社員と正社員で職務内容が異ならないため、手当に差異を設けることは不合理であるとしました。
給食手当は、勤務中に食事をとることの必要性は、契約社員と正社員で変わらないなどとして差異を設けることは不合理だとしました。
通勤手当も、交通費の補填であるが、通勤に要する費用は契約社員と正社員で異ならず差異を設けることは不合理だと判断しました。
このように、住宅手当は不合理ではないとされたものの、皆勤手当、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当については、契約社員と正社員で差異を設けることが不合理であると判断されました。
最高裁は、各手当の趣旨目的等を個別に検討し、手当の差異を丁寧に判断しています。
雇用する側は、人材を確保するため、そして確保した人材に長く居てもらうために、各種手当を支給します。しかし、無期雇用である正社員と同じ手当を支給すべきなのか、そうでなくてもよいのかというのは躊躇があるところでしょう。そこまでコストをかけられないという本音もあるかもしれません。
最高裁は判決の中で、正社員と契約社員の労働条件の差異が不合理なものかどうかの判断に当たっては「労使間の交渉や使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難い」としています。一応、経営者の経営判断にも配慮してくれています。また、会社の「中核を担う人材として登用される可能性の有無といった事情」も判断の材料にしています。すなわち、誤解を恐れずに言えば、将来会社の中核を担う人材を育成する目的がありそれが正当なものである場合には手当に差異をもうけることも許容される可能性があります。 今後、ますます正社員以外の雇用が増加すると思われます。自社の就業規則等を見直すことも必要となります。
執筆者 弁護士青木秀樹(第一東京弁護士会所属)
物流関連企業で勤務後に弁護士となる
2021年青木総合法律事務所立ち上げ
物流関連企業を含め中小企業顧問業務を担当
https://aokisogo-law.jp/#attorney
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