法令順守の意識高まる

弁護士による解説

最近、内部告発に関する報道を目にする機会が増えました。兵庫県のある職員の告発に対して県が不適切な対応をしたという報道があったのはつい最近のことです。

また、消費者庁の有識者会議では、公益通報者保護法を改正して企業が内部通報者に対し不利益処分をした場合の刑事罰を導入するという話も出ています。

消費者庁が令和6年4月に発表した民間事業者の内部通報対応実態調査結果(令和5年12月と令和6年3月の2回に分けて合計18000者の事業者に調査票を送付)によると、従業員数300人超の事業者の92%が内部通報制度を導入しているとのことです。また、導入事業者のうち内部通報窓口の年間受付件数が0~5件あるいは件数を把握していないとの回答は65%で、35%は年間6件以上の内部通報があるとの回答でした。会社側及び従業員側の双方で内部通報制度の認識は高まっているといえます。

では物流業界ではどうでしょうか。

 物流業界はいま変革期にあります。2024年問題を機に、従業員の置かれている労働環境が大きく変わり、従業員のコンプライアンス意識も高まっています。こういう変革の時期には、これまで見過ごされてきた会社の小さな不正や悪しき慣習が明るみにでることが多くあります。

 人材確保が困難になっている中、物流業界では特にコンプライアンスに敏感でなければならないのです。

 また、物流業界が将来にわたって発展するためには、これまで業界内にあった悪しき慣習が是正される必要があり、企業として告発がなされる前に対応しなければなりません。

実は、物流業界では過去に公益通報に関して大きく報道された事件があります。今回はこの事案を取り上げます。

運送会社A社の従業員Bは、ある日、A社がヤミカルテルを行っていることを知りました。従業員Bはヤミカルテルの事実を新聞社や公正取引委員会に告発しました。公正取引委員会は、A社を含めたカルテルに関与した会社に一斉立入検査を行いました。その結果、運輸省はA社を含む10社を厳重警告処分としました。

その後、A社は、Bを異動させたり、他の従業員から隔離して個室で雑務を行わせるなどし、長期間にわたってBを昇格させませんでした。

Bは、これらの扱いが内部告発を理由として差別的に行われたものだと主張し、慰謝料1000万円及び賃金格差相当の損害3970万円等の合計5400万円の支払を求め、訴訟提起しました。

 裁判所は、判決で慰謝料200万円、賃金格差相当の損害1046万円及び弁護士費用110万円を認容しました。

 まず、Bによる内部告発の正当性について、裁判所は、告発内容が真実であったか、少なくとも真実であると信ずるに足りる合理的な理由があるとしました。

会社にとっては、仮に正当性のない内部告発がなされてしまうと、不正をしていないにもかかわらず会社の信用は失われ、取引先との取引は停止に追い込まれるなど、その損害はとてつもなく大きなものになります。そこで、内部告発の正当性は慎重に判断されるべきでしょう。裁判所は、それまでの裁判例で示されていた、①告発の根幹部分が真実か、真実と信ずるに足りる相当の理由があるか、②告発の目的が公益性を有するか、③告発内容が組織において重要か、④内部告発の手段・方法が相当かという基準と同様の観点から判断しています。

 次に、A社のBに対する不利益な取り扱いの有無について、裁判所は、A社がBを異動させて個室で補助的な雑務をさせたこと、及び、Bに昇格がなかったことは、Bの内部告発に対する報復として不利益に扱ったものだと認定しました。

 そして、裁判所は合計1356万円の損害を認容したのです。

 内部告発に関しては、公益通報者保護法が制定されています。内部告発者はこの法律により保護されます。

本件では、同法の適用が問題になったのではありません。本件は、内部告発者が内部告発を理由に、不利益な報復的人事が行われ、それが人事権の濫用かが問題となった事例です。

 上述のように、本件では、内部告発に正当性があったか否かについて慎重に判断がなされています。その上で人事権の行使が報復的なもので人事権の濫用にあたると判断されました。

 先に述べたように、今後の物流業界では、これまで見過ごされてきた小さな不正や悪しき慣習が従業員により告発される事案が出てくるように思います。そのような悪しき慣習があるのは物流業界だけではないのですが、特に物流は業界内での様々な変化が大きく、それに伴いコンプライアンスの意識が急激に高まっているからです。  会社としては、これまでの悪しき慣習は今後通用しなくなると意識することはもちろん、従業員の指摘に耳を傾け、会社内部で迅速かつ適切に対応するための体制を整えることが重要です。


執筆者 弁護士青木秀樹(第一東京弁護士会所属)
物流関連企業で勤務後に弁護士となる
2021年青木総合法律事務所立ち上げ
物流関連企業を含め中小企業顧問業務を担当
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