物流業界 大きな潮目

弁護士による解説

 

本連載では、物流業界における人材確保とこれからの物流業界を考えるという視点で事案を取り上げていきたいと考えています。今回は独占禁止法に定められた優越的地位の濫用の事案です。
本事案は、例えば、物流事業者が荷主に対して運賃値上げを要請できるかなど、荷主との関係性を考えるきっかけになるものです。
第1に、人材確保という観点から考えましょう。運賃の値上げを要請したい。しかし要請したならば取引を停止されるのではないか。これまでもこれからも物流事業者が頭をかかえる問題であることは間違いありません。運賃の値上げをしなければ、ドライバーに十分な給与を支払うことはできず、ただでさえ人材不足と言われているのに、さらに人材を確保は難しくなります。
 第2に、これからの物流業界という視点も重要です。私は以前A地点からB地点に物を届ける物流には価格を低くすること以外に求められていないと思ったことがあります。荷主は物流に新たな付加価値など求めていないし、そうである以上運賃値上げを求めることなんて到底無理だ。物流には革新はなく、このまま何も変わらない。昔のことですが、私はこのように考えて物流の未来に期待しなくなったことがありました。しかし、近年明らかに物流業界に大きな潮目が迫っていると感じます。
 話を独禁法の話に戻します。独占禁止法の正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」です。独占禁止法の目的は、公正かつ自由な競争を促進することにあります。事業者が競争することによって提供されるサービスは安くかつ品質が良いものになり、ひいては消費者の利益となります。もし、事業者間の競争がなければ、価格は一部の事業者が決定し品質も改善されないでしょう。さらに私が着目するのは「技術革新」です。もし競争がなければ事業者が技術革新をしなくなり、その業界では技術革新が低迷するという考え方があります。あくまで私の考えですが、物流業界に漂う停滞感は、事業者間での競争が制限されていて技術革新をするインセンティブが低下していたことに原因があるのではないでしょうか。そういった状況を打開するために規制によって正常な競争を回復するのが独占禁止法の目的といえます。長くなりましたが、これからの物流という第2の視点からは、公正かつ自由な競争の促進により、物流の停滞感が打開されるかもしれないと考えられます。
 さて、今回の事案を見ていきましょう。今回の事案は独占禁止法の中でも不公正な取引方法の一類型である優越的地位の濫用です。下請法はこの優越的地位の濫用行為について補完する法律です。下請法については別の機会で触れますので、まず、独占禁止法の優越的地位の濫用の事案をみていただきたいと思います。
A社は地域において食品等の小売業を営む会社でした。A社に商品を納入している納入業者の中にはA社との取引がなければ事業を継続できないほどにA社の影響力を強く受けている業者もありました。そのような状況から納入業者の中にはA社からの様々な要請を断れない立場にある業者もありました。
まず、A社は、新規開店等の際に商品の陳列等をさせるために納入業者の従業員を派遣させていました。
また、A社は、納入業者に対して、当該業者に帰責性がなく返品条件の定めもないままに商品を返品していました。
さらに、A社は、店舗で割引販売を実施した際に割引額を納入業者に負担させていました。
公正取引委員会は、これらのA社の行為について、以下のように判断しました。
「A社は、自己の取引上の地位が相手に優越していることを利用して、正常な商習慣に照らして不当に
1 継続して取引する相手方に対して、当該取引に係る商品以外の商品を購入させ
2 継続して取引する相手に対して、自己のために金銭又は役務を提供させ
3 取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、又は取引の相手方に対して取引の対価の額を減じていた
のであり、独占禁止法2条9項5号に該当し、同法19条の規定に違反する。
そして、公正取引委員会は、A社に対し2億円以上の課徴金納付を命じました。
本件の事案は、小売業の納入業者に対する行為が問題になりましたが、荷主の物流事業者に対する行為も同じです。
公正取引委員会は、今年6月、荷主と物流事業者との取引に関する調査結果及び優越的地位の濫用事案の処理状況について発表しています。そこでは、荷主約18000名及び物流事業者約20000名から調査結果を回収し、そのうえで荷主12名に対しては立入調査を実施したとしています。そのうえで、公正取引委員会は独占禁止法上の独占禁止法上の問題につながるおそれのあった荷主573名に対し、具体的な懸念事項を明示した注意喚起文書を送付した、としています。
注意喚起文書を送付した荷主の行為類型として、買いたたきが239件、代金の減額が142件、代金の支払遅延が117件などを挙げています。令和4年の発表でも641名に懸念事項を明示した文書を送付したとされています。2年前の発表から文書を送付した荷主の数は減ってはいるものの改善には遠い状況となっています。
買いたたきの事例では、荷主が運賃引き上げを求められたにもかかわらず、物流事業者が自助努力で解決する問題であるとして運賃の引き上げ協議を拒否したという事案も具体例として挙げられています。
そして、同委員会は、今後の取組について、優越的地位の濫用に当たり得る具体的な事案に接した場合には、引き続き、独占禁止法に基づき積極的かつ厳正に対処していくと明言しています。公正取引員会のこのような発表からは、物流業界について特に問題があるとして注目していることが見受けられます。
 話はもとに戻りますが、物流業界には大きな潮目がきていると感じます。公正取引委員会が荷主と物流事業者との関係性に注目しているのは間違いがなく、公正かつ自由な競争を促進させるべく、今後動きがあるでしょう。
A地点からB地点に物を運ぶ物流においても、技術革新あるいはサービスの工夫が活発になり、新たな変革がおきることが期待できるのではないかと考えています。物流業界の自由競争が促進されることを期待して見守りたいと思います。


執筆者 弁護士青木秀樹(第一東京弁護士会所属)
物流関連企業で勤務後に弁護士となる
2021年青木総合法律事務所立ち上げ
物流関連企業を含め中小企業顧問業務を担当
https://aokisogo-law.jp/#attorney

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