6月25日(水)業界団体の独禁法違反

本連載 は 、 物流業 における 人材確保及 び 将 来 の 物 流 という 観 点 か ら 、 過 去 の 裁判例 を 解説 するものです 。
最 近 、 公 正 取 引 委 員 会 による 警 告 の ニ ュ ー ス を 見 か け ま し た 。 先 日 、 N P B ( 一 般 社 団 法人日本野球機構 ) が フ ジ テ レ ビ の 取材証 を 没 収 し た こ と に つ い て 独占禁止法違反 の 疑 い ありとして 、 公 正 取 引 委 員 会 が 警 告 を 出 す 方 針 と の 報 道 が あ っ た も の で す 。 過 去 に 遡 る と 、
2024 年 に は 、 同 じ く N P B が 球 団 に 対 し 選手契約交渉 の 選 手 代 理 人 を 弁護士 に 限 定 し 、 1人 の 弁護士 が 複 数 の 選 手 の 代理人 と な る こ と を 認 め な い よ う に さ せ て い た こ と に つ い て 、独禁法 8 条 4 号 が 問 題 となりました 。 業 界 は 全 く 異 なります し 、 公正取引委員会 の 警 告 と
言 われてもいまいちぴんと 来 な い か も し れ ま せ ん が 、 物 流 業 界 も 他人事 で は な い の で す 。
公正取引委員会 に よ る 上 述 の 警 告 は 、 N P B という 事 業 者 団 体 に 対 し て 出 さ れ た も の です 。 実 は 、 物流業界 で も 過 去 に 事 業 者 団 体 の 行 為 が 独禁法 に 違 反 すると 判 断 さ れ た 事 案 があります 。 各 事業者 が 直 接 の 当事者 と な っ た 事 案 ではな い の で す が 、 業界全体 と し て 問 題
意 識 を 持 つ べきだ と い う 観 点 で 取 り 上 げ て み ま し た 。
で は 事 案 ( 公 取 委 審 判 審 決 平 成 1 2 年 4 月 1 9 日審判審決 4 7 巻 3 頁 ) を 見 ていきましょう 。 本事案 で は 、 結 論 として 、 A 協 会 の 行 為 は 独占禁止法 8 条 4 号 に 違 反 すると 判 断 さ れました 。
独占禁止法 ( 私 的 独 占 の 禁止及 び 公 正 取 引 の 確 保 に 関 す る 法 律 ) は 、 8 条 1 号 で 事業者団 体 による 「 一 定 の 取引分野 における 競 争 を 実質的 に 制 限 す る 」 行 為 、 同 条 4 号 で 「 構 成事業者 の 機 能 または 活 動 を 不 当 に 制 限 す る 」 行 為 を 禁 止 し て い ま す 。 先 ほどの 、 N P B に よ
る 行 為 もこの 8 条 が 問 題 になりま し た 。 例 え ば 、 各事業者 が 自 ら 価 格 を 設 定 す る の で は なく 、 事業者団体 が 価 格 を 決 定 してそれを 各事業者 に 守 ら せ た な ら ば 、 市 場 に お け る 自 由 な
競 争 は 阻 害 さ れ て し ま い ま す 。 事業者 に よ る そ の よ う な 行 為 が 問 題 となります 。
倉庫関連 の A 協 会 は 、 全 国 の 地 区 ご と に あ る 地区協会 を 正 会 員 、 地区協会 の 構 成 員 で ある 事業者 を 賛助会員 として い ました 。 当 時 、 正会員 約 4 0 名 、 賛助会員 約 1 2 0 0 名 の 会員 数 で 、 会員事業者 の 設備能力 は 、 日 本 の 設備能力 の ほ と ん ど す べ て を 占 め て い ま し た 。
当 時 、 倉庫業法 で は 、 事前届出制 が 採 られており 、 各 事 業 者 は 保管料等 を 定 め る と き には 運輸大臣 に 届 出 な け れ ば な ら な い と さ れ て い ま し た 。
A 協 会 で は 会 員 事 業 者 か ら 保管料 の 引 き 上 げ を 行 っ て ほ し い と の 要 望 が 出 さ れ て い ま した 。 そこで 、 A 協 会 は 、 運輸省担当課 の 課 長 に 保管料 の 引 き 上 げについて 伝 え ま し た 。 これ に 対 し て 、 運輸省 か ら 届出保管料 の 多 様 化 を 図 ることが 望 ましいこと 、 ま た 、 8 . 8 % の 引
き 上 げであれば 届 け 出 てよいとの 意 向 が 示 されました 。 そ の 後 、 A 協 会 は 、 個 々 の 会員事
業 者 に 対 し 、 設 備 能 力 に 応 じてどの 料 率 で 届出保管料 を 引 き 上 げさせるかあらかじめ 定 め
ることとし 、 具体的 に 届 け 出 させる 時 期 、 方法等 の 検 討 も 進 め ました 。 そして 、 A 協 会 は
各地区 の 協 会 を 通 じ て 、 会員事業者 に 対 す る 説明会 を 開 催 す る な ど し 、 保管料 の 基本料率
の 引 き 上 げについて 周 知 したのでした 。
本件事案 で は A 協 会 によって 事業者 に よ る 届 出 が コ ン ト ロ ー ル さ れ て い た こ と が 問 題 と な
ったのです 。
公正取引委員会 は 、 ま ず 、 独禁法 8 条 1 号違反 について 、 同 号 に は 違 反 し な い と し ま し
た 。 理 由 は 、 次 の と お り で す 。 ま ず 、 審 決 は 、 独禁法 8 条 1 号違反 と な る た め に は 、 A 協
会 による 決 定 や 事 業 者 へ の 周 知 によって 、 一 定 の 取引分野 に お け る 競 争 の 実 質 的 制 限 が 生
4 0 じ る 必 要 がある と し ま し た 。 そして 、 こ の 競 争 の 実質的制限 は 実勢料金 について 生 じなけ
ればならない と し ま し た 。 つまり 、 A 協 会 による 届出料金 の 引 上 げ に 関 す る 決 定 や 周 知 が
実勢料金 に 影 響 を 及 ぼすのであれば 違 反 となるとしたのでした 。
そして 、 審 決 は 、 業 界 で は 、 一 般 に は 物 品 ごとに 単位料金 を 決 め て 取 引 するのが 通 常 と
なっており 、 届 出 に 定 めている 様 な 計 算 方 法 で 実勢料金 が 決 められるのは 一 見 の 顧 客 の 場
合 等 に 限 定 さ れ る な ど を 指 摘 しました 。 ま た 、 届出料金 の 引 上 げ の 決 定 と 実 勢 料 金 の 上 昇
と の 間 の 連動性 が あ る か に つ い て も 、 結 びつきはやや 薄 い と し ま し た 。 そうして 、 独禁法
8 条 1 号 に は 違 反 しないとしました 。
もっとも 、 審 決 は 、 A 協 会 による 届 出 料 金 の 引 上 げ に 関 す る 決 定 は 認 め ら れ る か ら 、 構
成事業者 の 機 能 ま た は 活 動 を 不 当 に 制 限 するもの だ と し ま し た 。 そして 、 独禁法 8 条 4 号
5 0 に 違 反 すると の 結 論 を 下 し た のでした 。このような 事業者団体 の 行 為 が 独禁法 に 違 反 すると 判 断 された 事 案 で 、 物流業界 のもの
は 、 本件以外 に も ト ラ ッ ク 協 会 やバス 協 会 に 関 す る 事 案 な ど 複 数 あります 。
独禁法 の 目 的 は 、 公 正 か つ 自 由 な 競 争 を 確 保 し 促 進 す る こ と で あ る と 考 え ら れ て い ま
す 。 本事案 で は 、 事 業 者 団 体 が 料 金 に つ い て 決 定 を 行 い 周 知 したことにより 、 自 由 な 競 争
が 阻 害 さ れ た の で は な い か が 問 題 と な り ま し た 。 現 在 で は 、 事業者団体 が 料 金 に つ い て 決
定 し 、 市 場 に 影 響 を 与 えるような 場 面 は 少 ないのかもしれません 。 しかし 、 一 方 で 、 事 業
者団体 による 社 会 公 共 目 的 の 様 々 な 動 き もあり 、 規 制 が 再 度 注 目 さ れ て い る と い い ま す 。
N P B に 対 す る 警 告 も 、 他 の 業 界 の こ と だ と 言 い 切 れ な い の で す 。 今 後 も 、 公 正 取 引 委 員 会
による 警 告 の 動 向 な ど は 見 守 っ て い き た い と 考 えております 。

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